
生活習慣病
健康診断の異常見て見ぬふりをしていませんか?
「血圧が高め」「血糖値に注意」「コレステロール値が…」 健康診断でこのような指摘を受けても、特に自覚症状がないため、つい後回しにしてしまってはいないでしょうか。生活習慣病は、初期段階ではほとんど症状が現れません。しかし、水面下で静かに進行し、気づいた時には心筋梗塞や脳卒中といった、その後の人生を大きく左右する深刻な事態を引き起こす可能性があります。だからこそ、生活習慣病はサイレントキラーと呼ばれているのです。働く世代の約3人に2人が、健康診断で何らかの異常を指摘されているというデータがあります[1]。特に30代、40代から患者数は急増し、決して他人事ではありません[2]。がん・心疾患・脳血管疾患といった三大生活習慣病は、日本人の死因の約半数を占めており[3]、症状がない今だからこそ、ご自身の体と向き合うことが将来の健康を守るために何よりも重要です。
「メタボリックドミノ」を倒さないために
生活習慣病の進行は、しばしば「メタボリックドミノ」に例えられます。これは、肥満やストレスといった原因で最初のドミノが倒れると、高血圧、高血糖、脂質異常症といったドミノが次々と倒れ、最終的には糖尿病、心血管疾患、脳血管疾患、腎不全による透析といった深刻な状態に至る、という考え方です。
ご自身の健康診断の結果と、日本人間ドック学会が示す基準値を照らし合わせ、現在のリスクを客観的に把握しましょう[4]。
- 血圧: 130/85mmHg 以上
- 血糖 (HbA1c): 5.6% 以上
- 脂質 (LDLコレステロール): 120mg/dL 以上
- 肝機能 (ALT): 31 U/L 以上
これらの数値は、あなたの血管や臓器が少しずつダメージを受け始めているサインかもしれません。最初のドミノが倒れる前に、対策を始めることが何よりも重要です。

引用:慶應義塾大学伊藤裕教授メタボリックドミノの概念図
https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000062
放置するとどうなるのか?
- 高血圧症: 常に血管に高い圧力がかかることで血管の壁が傷つき硬くなる、動脈硬化が進行します。これにより血管が脆くなり、脳卒中や心臓病のリスクが飛躍的に高まります。
- 2型糖尿病: 血液中の過剰な糖が全身の血管、特に細い血管を傷つけます。その結果、失明や下肢切断(足先の血流が悪くなることで組織が死んでしまう)といった深刻な合併症につながる可能性があります。
- 脂質異常症: 血液中の悪玉コレステロールなどが血管の壁に蓄積し、プラーク(粥腫)を形成します。これが血管を狭め、ある日突然プラークが剥がれると血管を塞ぎ、心筋梗塞を引き起こします。
- 高尿酸血症(痛風): 血液中の尿酸値が高い状態です。溶けきれなくなった尿酸が結晶となり、関節に激しい痛みを引き起こす痛風の原因となるほか、腎臓にもダメージを与えます。

生活習慣だけではない、多様なリスク因子
生活習慣病は、その名の通り不規則な食生活、運動不足、睡眠不足、喫煙、過度の飲酒といった日々の習慣が大きく影響しますが、決してそれだけが原因ではありません。
- 遺伝・体質的な要因: ご家族に同じ病気の方がいる場合、発症しやすい体質を受け継いでいる可能性があります。
- ストレス・精神的な要因: 多忙な業務による慢性的なストレスは、交感神経を優位にし、血圧や血糖値を上昇させます。また、双極性障害といった精神疾患が、代謝に影響を与え、生活習慣病のリスクを高めることも知られています[6]。
当院では、個人の努力不足として片付けるのではなく、ご本人の体質や置かれている環境にも配慮し、一人ひとりに合った対策を一緒に考えていきます。
今日からできる生活習慣の見直し
- 食事: 「腹八分目」「野菜から先に食べる」「塩分を控える」など、バランスの取れた食事が基本です。農林水産省の食事バランスガイドを参考に、主食・主菜・副菜を揃えることを意識しましょう。
- 運動: まずは今より10分多く体を動かすことから始めましょう。厚生労働省は、速歩きのような中強度以上の運動を定期的に行うことを推奨しています。これは、1日約60分の歩行に相当します。
- 睡眠: 睡眠不足は肥満と関連しているというデータもあります[7]。
- 禁煙: 喫煙は肺がんのリスクを男性では4.5倍、心筋梗塞などの心疾患リスクを1.7倍に高めます。[8]
- 節酒: アルコールは摂取量に比例して健康リスクが高まります。「少量なら大丈夫」ということはありませんので、飲む量を減らすことが重要です。

健康寿命を延ばすためのアプローチ
治療の目的は、単に検査結果を正常に戻すことだけではありません。将来の深刻な病気を防ぎ、健康上の問題で日常生活に制限なく生活できる期間を延ばすことが最大のゴールです。
- 高血圧症: まずは他の病気が原因である可能性を除外し、診断を確定します。治療の基本は生活習慣の改善ですが、必要に応じて薬物療法を開始します。近年では、スマートフォンのアプリを用いた治療(CureApp HTなど)も選択肢の一つです。また、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が原因の場合はCPAP療法が有効です。
「もしかして自分もSASかも…?」と思った方は、以下の記事にあるセルフチェックリストを参考にしてみてください。

- 2型糖尿病: 患者様との対話を重視し、継続可能な生活指導を行うことを基本とします。「こんなこと相談してもいいのかな?」と思うような些細なことでも、気軽に話せる関係性を大切にしています。ご自身のインスリン分泌能が保たれている段階であれば、経口薬による治療が中心となります。
経口薬による治療はこちらで詳しく解説しています

- 脂質異常症・高尿酸血症: これらの疾患は、生活習慣の改善だけではコントロールが難しい場合も多く、早期から薬物療法を検討することが一般的です。特に脂質異常症では、従来の薬で効果が不十分な方向けに「核酸医薬」といった新しい治療選択肢も登場しています。
多忙なあなたの健康を、継続可能な形でサポートします
これまでの内容を読み、ご自身の健康に不安を感じた方、あるいは「忙しい中で生活習慣を変えるのは難しい」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。生活習慣病治療の最大の壁は、まさにその「忙しくて通院が続かないこと」です。当院では、その問題を解決するために、多忙なビジネスパーソンに特化したサポート体制を整えています。
- 通いやすい診療体制: 平日夜間21時30分までの診療と、オンライン診療の活用で、貴重な時間を無駄にすることなく、仕事と治療の両立を強力にサポートします。
- 包括的なケア: 内科と心療内科が連携することで、数値の管理といった身体的な治療と並行して、その背景にあるストレスや心理的な問題にもアプローチし、より根本的な改善を目指せます。
- 長期的なサポート: 「健康パートナー」として、患者様のライフステージに寄り添い、長期的な視点で健康管理をサポートいたします。
健康診断で異常を指摘された方、将来の健康に不安を感じる方は、症状がなくても、ぜひ一度ご相談ください。
参考文献
- 厚生労働省「令和5年 定期健康診断結果報告の概要」.
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450211&tstat=000001018638&cycle=7&year=20230&month=0&result_back=1&tclass1val=0 - 全国健康保険協会「加入者の健康状態に関する調査研究(平成28年度)」. https://www.kyoukaikenpo.or.jp/file/datahealth3.pdf
- 厚生労働省 令和5年(2023)人口動態統計(確定数)の概況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei23/dl/11_h7.pdf
- 一般社団法人 日本人間ドック学会「判定区分・基準範囲一覧 2024年度版」. https://www.ningen-dock.jp/public_method/
- 慶應義塾大学伊藤裕教授メタボリックドミノの概念図 https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000062/
- Vancampfort D, Vansteelandt K, Correll CU, et al. Metabolic syndrome and metabolic abnormalities in bipolar disorder: a meta-analysis of prevalence rates and moderators. Am J Psychiatry. 2013;170(3):265-274. doi:10.1176/appi.ajp.2012.12050620
- Cappuccio FP, Taggart FM, Kandala NB, et al. Meta-analysis of short sleep duration and obesity in children and adults. Sleep. 2008;31(5):619-626. doi:10.1093/sleep/31.5.619
- 厚生労働省 資料7 喫煙の健康影響についてhttps://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/kaigi/060810/07.html


